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東京地方裁判所 昭和28年(行)6号 判決

原告 東宝株式会社

被告 東京都収用委員会

一、主  文

被告が昭和二十八年一月二十七日原告に対してなした別紙記載の処分はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決を求めると申立て、その請求の原因として原告は別紙記載の土地、建物、設備、工作物並に動産一切の所有者であるが、被告は昭和二十八年一月二十七日右物件全部につき「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法」(以下措置法と略称する)第十四条土地収用法第百二十三条を適用して別紙記載通りの使用許可をなし、その旨原告に通知して来た。けれども被告の右処分は左記の如く違法のものである。

(一)  措置法に基く日本国に駐留するアメリカ合衆国の軍隊の用に供する土地等の使用又は収用は同法第三条に明定する如く「その土地等を駐留軍の用に供することが適正且つ合理的」である場合に限られているのである。ところで日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約の冒頭において「日本国は、その防衛のための暫定措置として日本国に対する武力攻撃を阻止するため日本国内及びその附近にアメリカ合衆国がその軍隊を維持することを希望する」と云うによつて明であるように、アメリカ合衆国の軍隊の日本国駐留は、日本国に対する武力攻撃を阻止するためであるから、駐留軍による土地、建物の使用が日本国に対する武力攻撃を阻止するため必要である場合に限り前示措置法第三条の要件が充たされるのである。ところが別紙記載の物件は、映画の上映、劇演出の用に供する劇場並にその附属施設であつて、駐留軍の右物件の使用が日本国に対する武力攻撃を阻止するために必要であるとは云い得ないのであるから被告が措置法第三条の要件を充たすものとして同法第十四条に基いてなした処分は違法である。

(二)  本件処分は措置法第十四条により土地収用法第百二十三条を適用してなされたものであるが、同法条の適用要件としては、

(イ)  収用委員会に対する「裁決の申請に係る事業を緊急に施行する必要がある」場合であつて且つ

(ロ)  裁決の遅延により「事業の施行遅延を来し、その結果災害を防止することが困難となり、その他公共の利益に著しく支障を及ぼす虞がある」こと

を要するのであるが、別紙記載の物件は既述の如く劇場並にその附属施設であるから、さきに述べた安全保障条約の趣旨に照し、映画を上映し、演劇をなすことが緊急を要しないのは勿論、上映演劇のための上叙物件の使用が裁決の遅延によつて遅延したからとて、その結果災害を防止することが困難となり、又は公共の利益に著しく支障を及ぼす虞のないことは条理上からしても経験則からしても明かである。されば土地収用法第百二十三条の要件がないのに同条を適用した本件処分は違法のものである。

(三)  被告は本件処分において、使用を許可した物件として「使用する土地等の区域」と題する部分に別紙記載の如く土地宅地一、一七四坪七四九、建物延四、九七二坪五八九、設備九件、工作物五件、動産一二・八六四点と表示しているが、右表示は物件の具体的表示としては明確を欠き不適法のものである。

(四)  土地収用法第百二十三条第三項によれば収用委員会は土地を使用することを許可したときは、その使用許可を受けた事業の種類をも土地の所有者に通知しなければならないことになつているのに、本件の場合においてはその通知がなかつたからこの点からも本件処分は違法である。

以上(一)乃至(四)の何れからしても本件処分は違法であるからその取消を求めるものであると述べ、

被告の答弁に対し、

被告が本件使用許可処分をなすに至るまでの経緯として陳述した事実中本件物件が日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約発効前より連合国軍によつて使用せられて居り、その使用の期限が昭和二十八年一月二十七日となつて居たこと本件物件の使用に関し東京調達局長より原告に対し通知があつたこと及び原告が被告主張の調書に調印して居ることは認めるが、その余の事実は争う。

なお被告主張の字句の読替については措置法第十四条第二項において、政令を以てする土地収用法第百二十三条の読替えを定めて居るのは、措置法に基く土地等の使用について土地収用法を適用するに際り技術的事項に関する部分に限られて居る。措置法施行令は政令であるから右の事項を超えて土地収用法の規定の趣旨を制限、変更することは許されない。然るに措置法施行令第四条における土地収用法第百二十三条第一項についての読替え規定は右の技術的事項を超えるもので無効であり、措置法に基く緊急使用をなすには、土地収用法第百二十三条第一項所定の要件を具備することを要するものと言はなくてはならない。仮に被告主張の如く措置法施行令第四条の読替えが許されるとしても、本件物件は劇場及びその敷地、施設等であり、現に映画、演劇の上演の為に劇場として使用せられて居るものであつて、右何れの要件にも合致しないものであることは明白である。被告が縷々述ぶる処は政策上の理由ではあり得ても右の要件に該るものではない。更に事業の種類の通知の点について、措置法施行令第四条の土地収用法第百二十三条第三項についての読替へ規定は第一項についての場合と同様無効のものであるから土地収用法第百二十三条第三項により事業の種類の通知も必要であると言はなくてはならない。」と述べた。

(証拠省略)

被告指定代理人は、請求棄却の判決を求め、

原告主張事実中、原告主張の物件が原告の所有であること、被告が原告主張の別紙記載通りの使用許可をなしその旨の通知をなしたこと、及び被告が右処分をなすについて、事業の種類を原告に通知しなかつたことは認めるが、その余の点は争う。

ところで被告の本件使用許可処分をなすに至るまでの経緯は元来本件処分の対象となつた土地、建物、設備、工作物、動産(以下本件物件と略称)は以前より連合国軍の調達要求に基いて連合国によつて使用されて居たが、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約発効の日から九十日を経過した後は東京調達局長より原告に対し措置法附則第二条に基く通知がなされ、昭和二十八年一月二十七日迄引続き連合国軍に使用されることとなつて居たものである。そこで東京調達局長は右期間満了後も使用を継続させる為め昭和二十七年十一月十日措置法第四条に基き内閣総理大臣に対して本件物件の使用の認定を申請した処、同年同月二十四日内閣総理大臣より使用の認定があり、同年同月二十八日措置法第七条第一項によるその告示がなされ、東京調達局長は同日附書面で使用すべき物件の種類、数量等を被告に通知し、同年十二月七日附で、措置法第十四条、土地収用法第三十六条に基き、本件物件に関する土地調書及び物件調書を作成する一方、原告と本件物件の使用に関して協議したのであるが、損失補償額の点で協議は不調に帰したので、同年十二月十日附で被告に対し本件物件使用の裁決を申請したのであるが、その裁決がある迄にはなほ相当の日時を要するため、昭和二十八年一月十七日緊急使用の申立をなし、その申立に対して被告の本件処分がなされたのである。

そこで原告主張の(一)については、

ある土地、建物等が措置法第三条の定める要件に該当するか否かを判断する権限は内閣総理大臣のみが有する処であり、内閣総理大臣がその権限に基き当該物件について措置法第五条によつて使用の認定をなした場合に、被告はその使用の認定に基き、使用期間、損失補償等の事項の裁決並に緊急使用許可の処分をする権限を有するにすぎないのである。而して前述の如く内閣総理大臣が本件物件について使用の認定をしたので、被告はこれに基いて本件許可処分をなしたものである。ところで内閣総理大臣のなした右使用の認定は当然無効のものではないし、又取消されても居ないのであるから、仮に違法だとしても右使用の認定を一応有効として取扱い、これを前提として処分をしなければならないのであるから使用の認定の適法なりや否は少くとも本件においては裁判所の判断の外にあるものと云うべきであるが、それにしても措置法第三条に所謂「駐留軍の用に供することが、適正且合理的」な土地等とは、安全保障条約第三条に基く行政協定(以下行政協定と略称)第二条に所謂「安全保障条約第一条に掲げる目的の遂行に必要な施設及び区域」を意味するものであり、軍事基地、軍用地のみならず、駐留軍が日本に駐留するについて必要な一切の設施、区域を指称するものと解すべく、従来本件物件は映画、演劇の上演の外に屡々軍事教育、宗教上の礼拝、儀式等に使用せられて来て居り、又行政協定第二条第一項に基き日米合同委員会の議を経て昭和二十七年七月二十六日成立した「行政協定に基く日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」(同日附外務省告示第三十三号)において、本件物件が駐留軍の使用に供するものと定められて居ることからしても、本件物件は駐留軍の使用に供することが適正且合理的なものと言うべきであるから、右使用の認定には何等の違法もない。

そこで次に原告主張の(二)の本件緊急使用許可処分の必要性について述べる。本件物件は前述の如く従前より駐留軍に使用せられて居たが、その期限は昭和二十八年一月二十七日を以て満了することとなつて居るので、更に継続して使用に供するため内閣総理大臣より使用の認定があり、本件物件は駐留軍の使用に供されるものなることが既定の事実となつて居るのである。然し東京調達局長のなした裁決の申請に対し被告が本件物件の使用期間、損失補償等について裁決する迄には相当の期間を要するので、その使用の裁決ある迄には昭和二十八年一月二十七日を経過してしまうことが明らかであり、使用の裁決ある迄一時原告に返還しなければならず、駐留軍の使用は中断されることになる。措置法の基礎となつて居る日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約(以下安全保障条約と略称)によると、日本国の平和と安全を確保するため、日本国の希望により、米国軍隊の日本国内及びその附近に配備する権利を米国に許与したものであり、行政協定によると、日本国は駐留軍に対し安全保障条約第一条の目的遂行に必要な施設等の使用を許すことになつて居り、行政協定の前文に言う「両国民間の相互の利益及び敬意の緊密なきずなを強化する実際的な行政取極を締結」した趣旨に従つて本件物件について使用の認定がなされたのである。従つて措置法附則第二条の規定があることからしても、右駐留軍の使用が中断されることは安全保障条約第一条の目的達成に著しく支障を及ぼす虞れのあることが明らかである。然る以上右虞れを防止するためになされた本件処分は措置法施行令第四条によつて一部読替えられた土地収用法第百二十三条第一項(以下読替え後の百二十三条と略称)の規定に適合するものであつて違法ではない。

原告主張の(三)については本件処分においては、本件物件をば別紙記載の通りに表示して居るのであるが、既述の如く本件物件について土地調書、物件調書が作成され、これには原告の署名捺印がなされて居り、その調書には使用に供されようとする動産、工作物及び設備ごとにそれぞれの種類(大いさを含む)、数量等の明細が記載され、建物についても詳細な図面が附せられて居るのであるから別紙記載の如き本件物件の表示を以てして本件物件は充分具体的に特定し得る状態にあつたものであり、決して不明瞭の表示と言はるべきものではない。

原告は(四)において本件処分について、事業の種類の通知がなされて居ない点が違法であると主張するが、読替へ後の百二十三条第三項によると措置法による使用については事業の種類の通知は必要がないのであつて、違法ではない。」と述べた。

(証拠省略)

三、理  由

原告が別紙記載の土地、建物並びにその附属設備、工作物、動産等一切の物件を所有して居ること、被告が原告に対し、昭和二十八年一月二十七日右物件について別紙記載の通りの使用許可をなし、これを原告に対して通知したことは当事者間に争がない。

本件物件が従前より連合国軍の使用に供せられて居り、その期限が昭和二十八年一月二十七日迄であることは当事者間に争がなく、成立に争のない乙一号証の一、二によれば、昭和二十七年七月二十六日、行政協定第二条第一項に基き、合同委員会の議を経て、日本国においてアメリカ合衆国に対して提供するものと協定された物件の中には本件物件も含まれて居ることが認められるが、その協定は日本国がアメリカ合衆国に対して国際法上本件物件等を、その使用に供すべき義務を負うだけで直接日本国民個人の権利義務に消長を来たすものではなく日本国は右義務を果すために右協定とは別に日本国において国内法令により適法に当該物件を使用し得る措置を講ずることを要するものである。

ところで措置法施行令第四条を以てする土地収用法第百二十三条第一項についての読替へ規定が有効であるか否かについては当事者間に争があるけれどもこの点については被告主張の通りに右読替えが許されるものと仮定して、以下被告の主張について検討して見よう。

読替え後の百二十三条第一項によれば本件処分の如き緊急使用許可をなし得るのは、土地等の使用が緊急に必要であつて、その土地等の使用が遅延することによつて安全保障条約第一条に規定されて居る目的の達成に著しく支障を及ぼす虞れがある場合でなければならないことになつて居る。ところで安全保障条約第一条に規定されて居る目的とは、同条約前文を考え併せると、アメリカ合衆国軍隊の駐留によつて日本国における一定の内乱、騒擾の鎮圧、外部からの武力攻撃に対する日本国の安全を守るにあると言うべきである。しかる以上本件処分が適法であるためには先づ駐留軍による本件物件の使用の目的が右目的に合致して居るものであり、且本件物件の使用の遅延によつて右目的を達成するについて著しい支障を生ずる虞がある場合でなければならぬ。そこで被告が駐留軍の如何なる目的の使用に供する為に本件処分をなしたかはこれを知る由もないが本件物件が有楽町の娯楽街の中心に位置し、本来少女歌劇等の演出に使用されていた劇場並にその敷地、附属施設であることは公知(少くとも東京地方においては)の事実であるところ、本件物件が映画の上映、演劇等の劇場としての本来の使用方法以外(たとえば軍事教育等のため)の目的に使用せられて居るとの事実はこれを認むるに足りる証拠なく、却つて成立に争のない甲第二号証の一乃至六によれば、本件劇場において映画の上映がある旨広告されて居る事実が認められるのであつて、右事実並に前示公知の事実よりすれば、本件物件は直接には駐留軍の娯楽の用に使用せられて居るものと認められる。もとよりアメリカ合衆国の軍隊の駐留を許与する以上、その娯楽施設も好意的に考慮する必要もあるであろうが、直接娯楽の用に使用せられて居る本件物件の駐留軍による使用が一時中断せられたからとて、主として軍事的なものである前記目的の達成に著しい支障を生ずる虞あるものと言うことはできない。被告が本件物件の使用中断によつて生ずると主張する支障は、日本国のアメリカ合衆国に対する対外的責任上好ましからざる事態を生ずると言うに帰着するが、それは政治的考慮であつて、読替え後の第百二十三条第一項の本来企図する前記目的の範囲外であり、右の如き事情があつたとて国内法上日本国と個人としての原告との間の権利義務の関係において原告個人の財産の緊急使用を適法視する理由とはならない。

以上判示の通りであつて、本件処分は被告主張の通りに措置法施行令第四条における土地収用法第百二十三条第一項についての読替へが許されるとしても違法なことは明らかであるから、その余の点について判断するまでもなく取消を免れないものである。よつて原告の本訴請求は正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 毛利野富治郎 桑原正憲 山田尚)

(別紙)

昭和二十八年一月十七日付で東京調達局長より裁決申請のあつた土地等の使用について、昭和二十八年一月十七日緊急使用の申立があつたので、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法第十四条並に土地収用法第百二十三条の規定により左記の通りその使用を許可する。

一、調達局長の名称 東京調達局長

一、使用する土地等の区域

東京都千代田区有楽町一丁目六番地

土地 宅地一、一七四坪七四九

建物 延 四、七九三坪五八九

設備 九件、工作物 五件

動産 一二、八六四点

一、使用の方法 日本国に駐留するアメリカ合衆国軍隊の使用に供する。

一、使用期間 昭和二十八年一月二十八日より六ケ月間

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